近衛読書中隊

挙措において簡素 言語において細心 熱狂において慎重 絶望において堅忍  

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あるブログで知った池田俊彦さんの『その後の二・二六』を購入し読了。副題の「獄中交遊録」が示すとおり、小菅の刑務所での池田さんの思い出を綴ったものだ。当時の小菅には左右の大物が勢ぞろいしていた。井上日召、古内栄司、小沼正、菱沼五郎、橘孝三郎、四元義隆、林正三。五・一五事件の三上卓、古賀清志、黒岩勇、山岸宏、村山格之、中村義雄。田中清玄、佐野学、鍋山貞親、田島善行、谷川巌、河上肇、朴烈。後に徳田球一や志賀義雄、福本和夫も来た。

池田さんは当初、山口大尉の兵器開発の手伝いをしていた。山口大尉は刑務所内に作業所を作ってもらい、これを山口デザインオフィス(通称YDO)と名付け、萱場製作所から発注を受けた機関砲の設計を手がけていた。しかし池田さんは次第に大尉の態度に物足らないものを感じるようになり、志願して農作業に移った。

 橘氏とはよく哲学的な話をした。特にカントやヘーゲルの話をした。橘氏はヘーゲルよりもカントが良いと言った。両手を握って眼の前に出し、掌を内側に向けて開きそれを胸に引き寄せながら言った姿が今でも私の眼に焼きついている。あらゆるエルシャイヌング(現象)をエンピンデン(感受)するのにカントは十二のカテゴリーを考えた。複雑なようだが確実だと言われた。
ヘーゲルは詩だねとも言った。これは私がヘーゲルの法律哲学綱要の中の好きな言葉「理性的なるものは現実的、現実的なるものは理性的である云々」の話をしてその詩的表現に魅せられているようなことを言ったからである。ヘーゲルの文章はあの時の私の胸の中で躍動していた。
また橘氏は農村の話をした。農民と土とは一体で農民は土に生きるものだ。資本が農民を搾取することは許されない。いまの日本の小作制度には大きな欠陥がある。人間は米を食べて生きている。そして糞をたれる。その糞を肥料にして稲が育つのだ。これは生命の永遠の循環で、稲を育てる耕土は稲を作る農民と一体のものなのだ。これを農民の手から奪うことは許されない。日本の農村社会は稲作民族の生活のシンボルであり、生活の文化そのものである。ロシア革命など共産党は農地を貴族の所有から奪ったが、それを本来の農民の手に返さず政府のものにしてしまった。これは農地解放などではないと言った。農民と土地が一体である農村が国の基礎であって、如何に工業が発達しても、国の形態の基礎は農本である。これが崩れれば日本の社会的精神的根拠が崩壊する。日本の皇室はこの中心にましますと言われた。橘氏の話は私を魅了した。
あれから五十年以上経った今日でも私はこの時のことを覚えている。橘氏はこうゆう話をされる時、その顔には情熱が溢れていた。橘氏は埴生の宿とか菩提樹などの浪漫的な歌が好きで、平和な農村を心から愛した方である。その方が五・一五事件というテロ行動に走ったことの裏には、破壊されてゆく農村への限りない慈しみと共に、金権資本に対する烈しい怒りが心の底にたぎっていたからに違いないと思う。橘氏のこのような思想は左翼系の佐野学氏などに伝わっていたのではないかと払は考えている。


池田さんは獄中で、その後の歩一と歩三の有様について聞くことができた。事件後歩一の聯隊長となった牛島満大佐は思いやり深い人格者であったため、事件に参加した下士官兵も分け隔てなく労ったのに対し、歩三の新聯隊長は事件参加者を逆賊扱いし、彼等を最も危険な戦場へ追いやったという。この聯隊長が誰かは分っているが、裏の取れない話なのでここではその名前は伏せておく。

さてこの本に書いてあることではないが、ひとつ。敗戦後、二・二六事件はファッショへの道を開く転機となった事件と悪し様に言われる一方、そのファッショ官僚たちと敵対していたことで逆に評価されるようにもなった。斎藤瀏はGHQに呼ばれて二・二六事件について説明を求められ、その結果、事件はデモクラシー革命だとかなんとか言われて、アメリカ人は理解してくれていると喜んで帰ってきたという話もある。しかし事件で死刑を免れ、後に恩赦で出獄した人々の多くは、その後国策会社のようなところに勤めて、大戦中非常に熱心に国に尽くされた。国運をかけた戦争を前にした日本人として、それは当然のことであるし、まして彼らは元々軍人なのだから、これを非難するには当たらない。しかしやはり一抹の物足りなさを感じるのも正直なところである。


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